昨日、ブラウン管(CRT)がNTSC水平同期周波数の15750Hzの「キーン」という高音ノイズを発生させていること、それからその高音ノイズがVHSビデオテープに記録されてしまっていることについて書きました。
その高音ノイズがどれぐらいのものなのか見てみることにしましょう。
以下がVHSからデジタル化した音声データです。SoundcloudではMP3に変換され、高音域は削れてしまいますが、15750Hzの高音ノイズは消えていません。高域まで音が聞こえる方はご確認ください。
こちらの元データであるPCM Waveファイルをスペクトル解析してみます。15000Hzあたりに大きな山(ピーク)が見えます。こちらが水平同期によって生じる高音ノイズです。縦軸は信号の強さ、横軸は周波数です。

このグラフの15750Hzあたりを拡大してみます。周りに同様のノイズが記録されているのが確認できます。実際のピークは15734Hzにありました。

同じ音声を縦軸に周波数、横軸に経過時間、音が強いほどにオレンジ色になるように解析してみました。同じく15750Hzあたりに一様にピークが見られます。

このグラフの15750Hzあたりを拡大してみます。同様に15734Hzを中心に同様のノイズが記録されているのが確認できます。

このブラウン管(CRT)の水平同期によって発生する信号ノイズを除去してみました。以下がその結果です。
除去後のグラフは以下のようになっています。キレイに15734Hzを中心にしてノイズ成分が消えました。(ちなみに横向きにひっかき傷のように描かれているのは口笛の音です。こちらをキレイに除去することも可能です。)

昨日も触れましたが、この高音ノイズは聞こえる人と聞こえない人がいます。どちらかというと聞こえない人のほうが多いようです。私の家族では父だけが聞こえないようでした。聞こえない人にとっては実用上問題無いものかもしれません。
録音に携わる方々には、このノイズが作り手には聞こえなくても、聞き手によっては聞こえる場合があるのと、ダイナミックレンジを稼ぐために除去しておいた方が良い、ということを覚えておくと良いかもしれません。ブラウン管が近くにある状態で録音するときはお気を付けください。
私は耳が良いほうらしく、18.5kHzぐらいまでの音を聞き取ることができます。音楽関係の仕事が多いため周りにはミュージシャンが多いのですが、スタジオで仕事をする際に、どこまで獣レベルで聞こえるかという競争(?)のようなものをよくするのですが、ほとんど負けたことがありません。おおよそ大多数の人は14kHzあたりで聞き取れなくなるようです。はい、獣耳です。
さて、先日、私が所蔵するVHSをデジタル化しました。昔のNHKのアナログハイビジョン放送を録画したものをデジタル化したのです。毎年スイスで行われているMontreux Jazz Festivalの1998年の模様です。私の父が画面の専門家だった関係で、早い時期からアナログハイビジョンに対応したブラウン管テレビがありました。
デジタル化に際しては、母体が放送会社である当社が持つ業界最高クラスの映像と音声それぞれの録画機と録音機を使ってみました。出来上がったものは非常に品質が良く、自分一人で満足しておりました。
ところで、デジタル化したのにはもう一つ狙いがありました。VHSに記録されている音には途中でブラウン管の高音ノイズが記録されているのです。これを取り除きたい。
しかしよく考えてみると不思議でした。なぜアナログハイビジョンであるにもかかわらず、ブラウン管の高音ノイズが記録されているのでしょう?
当時の日本のアナログ地上波はNTSC方式で、水平同期周波数が15750Hz(=15.75kHz)であったために、水平駆動コイルやトランスが振動して、この周波数の高音ノイズを発生させます。この高音ノイズは外部に出力される音声信号にも混入していました。お気に入りの演奏に混入したこのノイズは、異様に感度の良い私の耳には不快きわまりない音なのです。
…しかし…アナログハイビジョンはNTSC方式ではありません。もっと高音の聴き取れない高さのノイズが発生するはずです。これはどういうことなのでしょうか?
考えてみたらこういうことでした。若い頃の私が録画に使ったアナログハイビジョン対応だと思っていたテレビは、見かけはワイド画面ですが、普通のNTSC信号に変換された映像を表示するテレビだったのです!ハイビジョンじゃない!
わたし達の日々のお仕事から、みなさまにお役に立てることを取り出して掲載していこうと思っています。今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。