日本人は、草むらから聞こえてくる音を「虫の音(むしのね)」と呼び、風流を感じます。ところが、イギリス人はこれを「noise(ノイズ)」と呼びます。イギリス人が「noise(ノイズ)」と呼ばない音を、日本人が「雑音」と呼ぶ場合もあるでしょう。このように、その音が雑音かどうかは、文化やその人の考え方・感性などにより、様々です。
上記のような理由で雑音・ノイズを定義することは非常に難しいのですが、ここから以下は、お客さまから「除去してほしい」とご依頼を受ける音を「雑音・ノイズ」と呼ぶことにします。あくまで「お客さまにとっての『雑音・ノイズ』」なのです。そこがスタートです。
さらに「雑音・ノイズ」を定義することにまつわる難しさについて付け加えます。1995年頃からデジタルレコーダーがプロフェッショナルの間に普及し、2005年頃からはアマチュア向けの高性能なマイク付きデジタルレコーダーが普及し始めました。これによって供給される音源から劇的に雑音・ノイズが減り、お客様の耳が敏感になっています。今までアナログの録音では問題にされなかった音が、今では雑音・ノイズと呼ばれるようになりました。テレビ地上波もデジタル化し、雑音・ノイズが極めて少ない音声を届けられているお客様の耳は日々鍛えられています。
※空気感の演出のために必要以上に雑音・ノイズを除去しない「自然な」雑音・ノイズ除去や、雑音・ノイズを加えるといったことも求められるようになりました。
このように求められる雑音・ノイズ除去技術も非常に高レベルになってきています。昔は除去が難しいと言われていた雑音・ノイズも、かなり除去が可能になってきています。空気感を損なわないような、非常に自然な雑音・ノイズ除去も可能になりました。
そのような現状をご理解いただいた上で、以下へお進みください。
除去できない雑音・ノイズ
まず最初に申し上げておかなければならないこととしましては、自然音というのは非常に複雑で、完全に雑音・ノイズを消すことはできません。ノイズ除去とは、残したい音に比べて、雑音・ノイズを小さくすること、だとお考えください。小さくすることで、客観的に(一般的に)気にならないレベルに抑えることを目標にしています。
※場合によってはほぼ完全に除去できることもあります。
効果的に除去できない雑音・ノイズの種類については、以下のようなものがあります。
- 雑音・ノイズにパターンや特性がない場合
- 残したい音と、雑音・ノイズの周波数帯域が同じ場合
- 残したい音と比べて、雑音・ノイズが大きすぎる場合
- 音割れがひどすぎる場合
- 複雑な音源の残響、または音源が特定できない過剰な残響
上記の例外としては、残したい音に明確なパターンや特性がある場合、雑音を除去するよりも、残したい音を大きくすることで、聞こえやすくするということが可能な場合があります。
基本的な考えとしては、残したい音(取り出したい音)が「聞こえ」、雑音・ノイズが複雑すぎない、という場合に、雑音・ノイズを効果的に除去できる場合が多いとお考えください。
このような除去できない雑音・ノイズの具体的な例としては以下のようなものがあります。
- 多くの人が話している中から、特定の人の声だけを取り出す
- 周波数が連続的に変化する電気系のノイズを消す
- 残響が大きすぎるコンサートホールでのオーケストラの残響を減らす
以上、雑音・ノイズ除去が難しい場合の事例ばかり挙げてきました。
しかし、音は複雑でありながらも、私たちが考えている以上に秩序があります。私たちは、さまざまな工夫を凝らすことで、日々新しい雑音・ノイズ除去方法を発見しています。いま難しいと考えられるものであっても、除去できるようになることがあります。